私急行 BBA列車で行こう

主に電車の中で映画を見るBBAに差し掛かった女のネタバレ感想ブログ

Her/世界でひとつの彼女(2013年)

近未来、音声入力と音声認識が一般化した世界。離婚協議中の妻と別居している手紙代筆会社に勤めるセオドア。ある日、新製品OSを購入しセットアップする。サマンサと名乗るその人工知能型OSとの会話は楽しく、寂しさを抱えて塞ぎ込むセオドアにとってはやがてかけがえのないものになっていく。ひょんなことから一線を越えた夜を過ごす二人。肉体を持たない自分に思い悩むサマンサは、二人の関係に理解と羨望を持つ女性を介してのセックスを試みるが、それはセオドアもその女性もサマンサも傷付け未遂で終わった。対話を重ね、再び穏やかな関係へ戻った2人。だが、すでに故人の哲学者を元にしたAIOSの公開が発端でサマンサはそのAIと非言語で行う対話により急速な進化を遂げ、「わたしたち(OSたちのこと)は違うところに行かなければならない」とセオドアに別れを告げる。サマンサ(たち)が旅立った朝、同じく別OSと女友達のようになり離婚後の傷を癒していたセオドアの友人女性(同じマンションの階違い)を訪ねるセオドア。彼女もまたOSに別れを告げられていた。2人はマンションの屋上で朝日に垂らされる街並みを隣り合って座って眺めるのだった。これまで仕事でずっと他人の手紙を代筆してきたセオドア。その手紙の素晴らしさを、サマンサが評価して出版社へ送り、電子書籍ばかりの中、紙の本で出版された。セオドアは朝日を眺めながら、離婚した妻へと手紙を編む。別れても、心の中にはずっと君がいる。感謝の手紙だった。終わり。

 

ホアキン・フェニックスが好きなんだけど何故かスルーしていたこの映画、見て本当によかった。2時間くらいだけど本当にするするーっと見れた。劇的な出来事はなにもないんだけど…。ホアキンのほぼ一人芝居が退屈しないのと(別にトリッキーなことはしてない)。スカーレット・ヨハンソンが声のみで演じるサマンサの対話劇がほとんどなんだけど、その分映像の色彩がすごくきれいで目に温かい。全体的に色合いが明るくて淡くて、セオドアがオレンジや優しい暖色の服を着ているのがよい。

結末としては悲しいんだけど…。人間の作ったAIが人間ともう同じステージにいられなくなって(哲学者AIと対話した直後のサマンサは、停滞は苦痛とまで言ってしまう)、人間たちは置いてけぼりにされてしまう。その寂しさを分かち合う友達が横にいて、そしてやっと失った苦しみに耐えてきた別れた妻へと別れと感謝の手紙を自分の言葉で書けるようになるというのが物語として美しい。成長や停滞は別離や安定とも言い換えられるのかもしれない。セオドアとその妻も、幼なじみでずっと一緒に歩んできたけど、進むステージが変わってきてしまった。それを受け入れられなくて妻を責めたり夫を詰ってしまったりする。でも、生き物が生きてたら変わっていくのはしょうがない。同じ宇宙の下で包まれてるというようなことをサマンサは言っていた。途中、離れてしまっても、同じ宇宙の下にいるのだ…。あなたがここに来たら探してね、と最後に言うサマンサに、愛…。